気候変動が日本のスキー場に与える影響に関する考察

画像生成:Gemini Memo

日本のスキー場は、長年にわたり豊富な天然雪と多様な地形を背景に独自のウィンタースポーツ文化を築いてきましたが、近年は気候変動による気温上昇と降雪量の減少が顕著になり、その存続可能性が深刻な脅威にさらされています。2026年8月に北海道大学と森林総合研究所が共同で実施した研究では、日本全国349か所のスキー場を対象に気温上昇シナリオ別の営業可能性が科学的に分析されており、温室効果ガスの排出対策がほとんど進まない最悪の「気温4℃上昇シナリオ(2050〜2111年)」においては、天然雪のみで安定営業できるスキー場が全国でわずか7か所にまで減少すると予測されています。この7か所に残る共通の条件としては、北海道内陸部などの高緯度地域であること、標高1,500〜2,000米以上の高標高帯であること、そして日本海側からの寒気を直接受ける山岳地帯であることが挙げられ、具体的には大雪山系や旭川周辺、ニセコ・羊蹄山、秋田八幡平、蔵王連峰、志賀高原、尾瀬・丸沼高原などが該当します。

一方で、パリ協定の目標に近い排出削減が進んだ場合の「気温2℃上昇シナリオ(2030〜2091年)」においても、全面営業が可能なスキー場は53か所にまで減少するとされています。このシナリオにおいて存続可能性が高い地域は、札幌西側やニセコ、大雪山系といった北海道内をはじめ、志賀高原、野沢温泉、妙高・白馬、湯沢・みなかみなどの長野・新潟・群馬県境、さらに奥羽山脈や八甲田山、蔵王連峰といった東北の山岳エリアに集中する見通しです。

こうした気候変動の影響は単なる雪量の減少にとどまらず、スキー場経営の構造そのものを変えていくと指摘されています。2030年代の気温+2℃の時期には、スキー場は約50か所へと集約され、閉鎖されたスキー場から熟練スタッフが流入することで一時的に人材の質は向上するものの、地方の人口減少によって一般アルバイトの確保は困難になるため、通年雇用やアウトドアの複合化が必須となります。さらに2050年代の気温+4℃の時期には、スキー場は約10か所にまで縮小し、地元の人材はほぼ消失して海外のワーキングホリデー参加者や都市からの移住者が中心を担うようになります。その結果、AIやロボティクスによる省人化が進み、人員を1〜2割に抑えた超富裕層向けの高単価リゾート化が進行すると考えられています。

また、気候変動は人工降雪技術に対しても大きな制約をもたらします。氷点下の日数が減少することで人工降雪機が十分に機能しなくなり、高温環境によって人工造雪機の雪も急速に融けてしまうほか、電気代や水量の増大による経済的な維持の困難さ、さらには水不足のリスクによって造雪そのものが不安定になるという課題に直面します。

こうした動向を踏まえると、北大の研究が示す未来像は、日本のスキー文化が「高標高・高緯度・高付加価値」の方向へと再編されていく姿を指し示しています。地理的には「広く浅く」から「狭く深く」へと転換し、本物の雪が得られる志賀高原や蔵王、八甲田、大雪山、ニセコなどの限られた地域が核となって存続していきます。これにスキーヤーの高齢化という要素が相互作用することで、安全や快適、そして本物の雪を求める傾向が一層強まり、気候変動で雪質が不安定になるほど高標高リゾートの価値は上昇するとみられます。かつての「どこでも滑れる」時代から、今後は「選ばれた場所で滑る」時代へとスキーの価値観が変わり、大衆スポーツから自然環境を尊重する「プレミアム体験型スポーツ」への移行が進んでいくことになります。 気候変動は日本のスキー場の存続を根本から揺るがす深刻な問題であると同時に、自然環境の価値を改めて認識し、持続可能な形でスキー文化を次代へ継承していくための契機にもなり得ます。北大の研究成果は、単なる悲観的な予測ではなく、これからのスキー産業がどのように再編されるべきかを映し出す重要な指針であると言えます。

<引用>

・日本雪氷学会 学会誌「雪氷」の第88巻4号(2026年8月1日発行)
森林総合研究所
気候変動でスキー場はどのぐらい減るのか? ~気温4℃上昇で安定営業できるスキー場は全国で7か所に~
・表紙:高緯度・高標高山岳地帯における降雪のメカニズム(画像生成:Gemini)