■3ピース構造のブーツに着目している理由
来季のスキーブーツの目玉は、ダブルBOAのスキーブーツかもしれません。ロアシェルのBOAが登場して、従来のバックルではオーバーラップの部分だけが閉まっていたアウターシェルが、足の甲を包み込むように締められるようになったわけですが、昨年あたりからアッパーシェルにもBOAが付くようになりました。
もともとスキーブーツは、甲を締め付けるより、脛骨と踝が固定された方がスキー操作を安定させます。しかし、足首が動かなければコントロールができなくなるため、仕方なく足の甲を締めて、アッパーシェルのバックルを緩めて滑る方がいます。しかし、これは良い方法ではありません。理想的には、脛骨と踝が固定されながらも前後に動かせる構造が求められます。そのため、足の甲を締めるBOAシステムよりも、アッパーシェルをBOAで締めて踝を固定し、フレックスを確保する方がより理想的といえるかもしれません。
もともとSAJの教程は、日本のスキー場環境を考慮してか、スラローム競技へ誘導している節がないわけでもありません。そのため、ラディウス13m前後のカービングスキーで滑ることが前提で教程が構成されているためか、多くの指導者は2ピース構造のスキーブーツ、つまり横剛性の強く硬いブーツを履く割合がかなり高いと感じています。
ところが、世界選手権やオリンピックで上位入賞する種目の中にモーグル競技がありますが、モーグル競技では3ピース構造のスキーブーツが圧倒的に多いのが現状です。なぜモーグル競技では3ピース構造のブーツが当たり前で、スラローム競技(基礎スキー)の世界では2ピース構造のブーツの比率が高いのでしょうか。
私もスキーブーツの候補の中に、ダブルBOAの「RECON TEAM ZONAL BOA」「RECON AF-130-110 ZONAL BOA」を上げており、確かに脛の部分のホールド感がバックルとは比べ物にならないほどよく締まります。ロアシェルのBOAがなくても良いと感じるほどの出来栄えです。他方、K2 FL3Xの「REVOLVE KF」は40年以上前に完成している金型を使ったモデルです。40年間、金型を変える必要がないほど、完成度が高いブーツであると言えます。
■なぜこれほど完成度が高いのか?
Sven Coomer(スヴェン・クーマー)は、現代スキーブーツの基礎を作り上げた“父”と呼ばれる人物です。彼は3ピース(カブリオ)構造のレースブーツを設計し、現在のFL3X / Raichle / Full Tilt系の原型を作っただけでなく、現在のブーツの標準仕様(パワーストラップ、インナーブーツ、インソール、3ピース構造のシェルなど)を生み出しました。
Swiss Ski Museumの記録によると、3ピース構造は以下のような流れで誕生しました。
1.Sven Coomer が基本構造を設計
2.Erik Giese が商業化・改良
3.Raichle にライセンス提供され製品化
元Full Tiltの設計者であるスヴェン・クーマーは、当時の構造について次のように語っています。
「このブーツと従来のオーバーラップブーツの違いは、このブーツが3つのパーツで構成されている点です。ブーツの操舵を担うメインボディシャーシ、リアカフ、そしてフレックスタンです。
ある日、私は自分の指の関節の皮膚を見ていました。皆さんも自分の指の関節を見てみてください。折り畳まれて、きれいな丸い波状の凹凸ができているのがわかるでしょう。そこで私たちは、スキー板の先端に丸い突起を付けて、柔軟性を持たせようと考えました。NASAとの繋がりは、70年代初頭に宇宙開発に携わっていたことから生まれました。当時、当社のエンジニア2名がNASAに直接勤務していました。彼らとの協力により、波状の構造を持つ、可動式で歪みのないジョイントというコンセプトが生まれました。
例えば、ペーパータオルの芯や段ボールの芯を曲げると、たわんでしまいますよね。でも、波状の溝が付いたストローがあれば、いくらでも曲げることができて、歪みや変形もありません。ケーブルシステムのおかげで、タン全体と脚に均等に圧力が分散されます。このカフは従来のブーツのようにリベット留めされていないので、自然な屈曲、つまり自然な前屈が実現されています。
タンとケーブルシステムとの組み合わせにより、全く異なる構造となっており、自然な屈曲という点では圧倒的に優れています。まるで自分の足首が自然に動いているかのような感覚です。他のバックルだと圧迫感が生じますが、ケーブルはブーツを足にぴったりと包み込みます。
このブーツで私が特に気に入っているのは、屈曲の調整機能です。数分でタンの形状を変え、ブーツの屈曲を好みの硬さから柔らかさまで調整できます。このブーツのタンの一番の特長は、交換可能なことです。小さなクリップで留めるだけなので、簡単に交換できます。他のブーツだと、交換するには何かを切断する必要があり、ブーツの耐久性を損なってしまうこともあります。ブーツを開いて、タンを広げるだけ。ドライバーでも手でも使えます。さあ、取り付けましょう。まるで新しいブーツを手に入れたみたいですね。」
(参照:YouTube『The Unique Flex of Full Tilt Boots and Why it is Better for Skiing』)
このように、シェルの歪みや変形を伴うことなく自然な屈曲を実現し、寒い時期には柔らかいタン、暖かい時期には硬いタンに交換することで、様々な環境下で同じ滑りを再現しやすいと言えます。
■2ピースと3ピースの特性比較
結論から言うと、Raichle → FT → K2 FL3X の3ピース構造は、もともとダウンヒル(DH)用として生まれた“吸収性能の高いブーツ”でしたが、その特性がモーグル競技に完璧にフィットしたため、現在のモーグル界のスタンダードになりました。3ピース構造は、前後方向のしなりが極めてスムーズで軽量、衝撃吸収に優れ、足首の自由度があるため、モーグル競技の条件と見事に一致したわけです。
逆に2ピース構造は、スラローム競技に必要な横方向のエッジング、反発力、ねじれ剛性、瞬間的なパワー伝達に対応するため、ブーツを硬く進化させてきました。
・3ピース(FT/FL3X):前後のしなり・吸収・自由度に優れ、コブ・不整地・小回り・低中速域の操作性が抜群。
・2ピース(オーバーラップ):横剛性・反発・エッジ保持に優れ、圧雪バーン・高速・大回り・カービングで圧倒的に有利。
雪質別に比較すると、圧雪バーンやアイスバーンでは硬い2ピースが有利ですが、不整地、悪雪、新雪、深雪、湿雪などでは3ピースが優位になります。ターンサイズで見ても、一般ゲレンデの中速域までで面荷重をベースに滑るのであれば3ピースが優位ですが、中回りから大回りをカービング重視で滑るなら2ピースが優位になります。
私はどちらかというと足首を使うタイプのスキーヤーであり、面荷重でカービングを構築する滑り方であるため、横方向の剛性よりも「縦方向の柔軟性」を選択する方が自分の滑りに合致しています。また、3ピースのケーブルシステムは、他のバックルのような局所的な圧迫感が生じず、ブーツを足にぴったりと包み込んでくれます。BOAと同様に脛をしっかりホールドしながら、指先には適度な遊びが保たれます。
■選定モデル:K2 Revolve KF の魅力
今回候補に挙げている「K2 Revolve KF」は、プロスキーヤーのカール・フォストヴェット(Karl Fostvedt)のシグネチャーモデルとして知られています。
・ハードフレックス(130):シリーズ中で最も硬い130フレックスに設定されており、ハイスピードでの安定性とスキーへの確実なパワー伝達が可能。
・ラスト(足幅):競技・パフォーマンス向けの99mm(ナロー〜ミディアム)で反応性の高いタイトなフィット感。さらに、つま先部分が従来よりやや広めの「Revolve Plus Shell」により、指先が詰まりにくい快適性を両立。
・Intuition Pro Wrap インナー:足首周りを包み込む最高峰の熱成型ラップ型インナーで、かかとの浮きを徹底排除(シェル・インナーともに完全熱成型が可能)。
・Pebaxタング:リブ(蛇腹)状のタングには軽量かつ気温変化に強いPebax素材を採用し、気温差に関係なく常に一定のしなやかなフレックスを維持。
・GripWalk ソール:歩行時の滑りを防ぎ、ハイクアップや岩場での移動が快適。
・エラスティック・カムストラップ:太く伸縮性のある1ピースストラップで、脛をしっかりと固定しつつ足首の柔軟性を生かす。
本来ならハイスピードで斜面を攻めるモーグルや大きなエアを飛ぶのに適したモデルですが、アウターシェルとリアシェルの間にあるスペーサーを取り外すことで前傾角を起こすことができ、130の硬さでありながら十分なフレックスを確保することができます。
価格面でもダブルBOAより安価である点や、現在履いている「MINDBENDER 140 BOA」のインナーがオーバーラップ構造で非常に履きやすくホールド感が良い点に通じるものがあり、「REVOLVE KF」も同様の安心感をもって違和感なく履けると感じています。この3ピース構造のシェルは、スキーヤーの引き出しを広げる意味でも1台保有しておく価値があると考えています。

