スキー人生の延命

Memo

昨今は人口減少と異常気象の影響に加え、コロナ禍以降の物価高騰もあり、スキーヤーの人口は頭打ちとなり、相対的に年齢層が上がりました。

それまでオンピステの硬いバーンで滑ることに熱中していた背景には、日本固有の地形、つまり起伏が激しく滑走距離が短いという地理的な要因から、クラシック競技の中のSL(スラローム)の人気が出たことが挙げられます。また、欧米人に比べて小柄でパワー面で劣る日本人が世界のトップと対等に戦える競技がSLだったこともあり、多くの日本人スキーヤーがSL競技に強い関心を持ち、競技用のSL板を購入して滑る傾向が強く現れていたのではないでしょうか。

そして、スキーヤー人口の減少と高齢化の影響を受け、メーカー各社は販路拡大のため、SL以外のバックカントリー系やフリーライド系の板のプロモーションを増やし、1人で複数台のスキー板を所有させる戦略に成功しました。その一方で、SL競技での勝利が容易ではない中、日本人の器用さや敏捷性を生かせる新しい競技種目が注目を集め始めました。モーグルやパウダースキー、フリースタイル競技など、スキーの楽しみ方の多様化が進み、市場の活性化につながっています。

こうした環境の中で、自然とスキーの多様性に触手を伸ばした層と、相変わらずオンピステの硬いバーンでカービングに興じる層が存在するのも事実です。日本で独自に進化したスキーの価値観を堅持するのか、それとも世界標準の多様なスキーの楽しみ方に目を向けられるのかが、今問われているのではないでしょうか。

1. 「SLへの傾倒」という日本固有の価値観

日本人がSLを好み、競技用のSL板を好んで購入してきた背景には、「地形・体格・成功体験」が完璧に噛み合っていたことがあります。

地理的に、欧米の大規模スキー場に比べて日本のスキー場は1本の滑走距離が短く、中斜面・急斜面がタイトに入り組む地形が多く見られます。そのため、ロングターン(GS)よりも、限られたスペースで激しくターンを刻むSLのほうが日本のゲレンデ構造にマッチしていました。

それに加え、体格やパワーで劣る日本人が世界のトップと対等に戦えたのがSLでした(古くは猪谷千春氏の銀メダル、のちに木村公宣氏、皆川賢太郎氏、湯浅直樹氏などのW杯表表彰台・上位入賞)。「技術(敏捷性と器用さ)でパワーを凌駕する」というストーリーは日本のスキーヤーの琴線に触れ、「SL板を履いて硬いバーンで綺麗にカービング小回りをするのが至高の技術である」という信仰(SAJデモ技術選への憧れとも直結)を長く支えることになりました。

2. 高齢化・人口減少が生んだ「複数台所有」へのシフト

スキー人口の減少と高齢化に対して、メーカーや市場が仕掛けた「価値観の多様化(複数台所有の促進)」という見立ては、ビジネス的にも完全に事実です。

スキーヤーの絶対数が減る中、メーカーが生き残るためには「1人が1台を長く乗る」状態から、「シチュエーションに合わせて複数台を使い分ける」状態へ移行させる必要がありました。

さらに、JAPOW(ジャパウ)と呼ばれる日本の極上のパウダースノーが海外から再評価されたことも追い風となり、メーカーは「ゲレンデの外(あるいは未圧雪エリア)」の魅力を積極的にアピールしました。これにより、かつてSL板で1点突破していた層や新しい刺激を求める層が、幅広のパウダー板やファットスキーを「2台目、3台目」として購入する流れが定着しました。同時に、モーグルやフリースタイル(パーク)も、日本人の敏捷性を活かせる場として市民権を得ていきました。

3. 「オンピステ派(SL傾倒層)」の心理と加齢のパラドックス

バブル期やそれ以降のスキーブームを経験し、SL板やデモ板で「いかに綺麗に、鋭くターンを切るか」に心血を注いできた層にとって、スキーとは「自然を楽しむ(パウダーやフリーライド)」こと以上に「技術を追求・証明する」スポーツです。技術至上主義からの脱却の難しさはここにあります。

また、年齢とともに体力や筋力は落ちているにもかかわらず、フラッグシップモデル(競技用やデモ上級の硬い板)を購入してしまうのは、それが自身の「スキーヤーとしてのプライド」であり、かつて憧れた世界へのリスペクトだからです。パウダーやモーグルへの移行は、それまで培った「オンピステの小回り技術」という資産を一度手放すように感じられるため、なかなか触手を伸ばせない(伸ばさない)という心理的障壁が存在します。

おわりに

私たちの身体は加齢に伴い筋力の低下が顕著になり、オンピステの硬いバーンで小回りだけで滑り続ける体力は年々衰えていきます。 だからこそ、加齢に伴い軽量でたわみの出せる板へ切り替えたり、パウダーやコブ斜面を楽しむ目的的な板を用いたりして、技術の多様化やスキーの価値観の変化に順応していくことが、長く楽しむための秘訣だと感じられます。 「変化への適応」は、「スキー人生の延命」に直結しています。