世界有数のパウダースポット
谷川岳は群馬・新潟の県境にある三国山脈の山で、周囲の万太郎山・仙ノ倉山・茂倉岳などを総じて谷川連峰と呼んでいます。日本海と太平洋の分水嶺となっている山で、冬は日本海を渡った冷たい風がたくさんの雪を降らせながらこの分水嶺にぶつかり、山越えして大雪をもたらします。そのため天候の変化が激しい場所でもあります。水上宝台樹スキー場は、宝台樹山の東側に位置しており、北斜面の標高(1400m)の高いスキー場なので、降雪が見込めるスキー場でもあります。非圧雪の急斜面が3本、深雪が楽しめるコースが3本別にある深雪の聖地とも言えるスキー場です。近年、日本海側の海水温が上昇しているため、温暖化している環境下でも、シベリアからの低気圧が南下すれば、大雪をもたらす場所でもあります。
オープンハウスグループが新規参入
オープンハウスグループは、群馬県北部の観光の核である宝台樹(ほうだいぎ)スキー場の事業承継を行いました。旧宝台樹スキー場は、スキー人口の減少やコロナ禍などの影響で、2016年から20年まで5年連続で最終赤字を計上、経営不振が続く上、再投資も厳しい状況でした。オープンハウスグループが事業承継を実施、「群馬みなかみほうだいぎスキー場」と名称を変更し、2021年12月18日より新規算入しました。
「群馬みなかみほうだいぎスキー場」とは
群馬みなかみほうだいぎスキー場の特徴は、大きく2つあります。1つは第8クワッドリフトのあるたんぽぽコース(1050m)と第6ペアリフトのあるファミリーコース(1110m)の緩斜面です。この緩斜面があるおかげで、スキーやスノーボーダーの初心者をはじめ家族でスキーが楽しめるコースになっています。緩斜面(10度)で1000mを超えるコースを2つ持っているスキー場はなかなか見当たりません。このため多くのスキー客を集客できる環境を持っています。2つめは、非常にニッチな世界ですが、第9クワッドリフト(1500m)で標高1400mの頂上まで上がると、谷川岳連邦を一望しながら、第9コース(680m)、第10コース(成平コース1400m)、第10コースと圧雪コースと非圧雪コースをセパレートした管理区域が滑れるほか、第7ペアリフトから最大斜度40度のイーグルコース(500m)、最大斜度32度のダウンヒルコース(750m)、最大斜度35度のパラダイスコース(680m)の非圧雪コース(滑走禁止区域)があることです。
時間差運航が生み出すパウダー三昧
リフトの運航は、第6ペアリフトの運航が8時30分で、第9クワッドリフトの運航が9時、第7ペアリフトの運航が9時30分と時間差が設けてあります。この時間差運航が非常に重要で、これによりパウダーを求めてくるスキーヤーやスノーボーダーが非圧雪コースをまんべんなく滑れるという特徴があります。運行時間が同じだとリフト運航から1時間ちょっとでパウダーは滑りつくされ、悪雪に代わりますが、リフトの運航時間をずらすことで、より長い時間パウダーを味わえる機会が増します。この時間差運航は、今後も継続していくべきでしょう。
第7リフトの運休
2023年シーズンはこの非圧雪コースの連絡リフトである第7ペアリフトを幾度となく「人員不足のため運休」とし、トップシーズンの醍醐味がなくなってしまいました。インバウンド需要を求めるのであれば、ニセコに匹敵する極上のパウダーを満喫できる群馬みなかみほうだいぎスキー場はかなりの需要があるはずです。しかしトップシーズン中、幾度となく第7ペアリフトを運休していると、誰も行かなくなるでしょう。もちろん天候不順による運休は仕方がないことですが、前日にならないと第7リフトが動くか動かないか、わからない状況を放置していることからすれば、インバウンドの需要も見込めなくなることを承知しておく必要があります。このスキー場の生命線ともいえる第7リフトが信頼されなければ、スキーやスノーボードの強者は確実に滑れるスキー場へ行ってしまいます。
簡易宿泊施設の設置とシャトルバスの連動
ペアリフト4台の電気代は、例えば、500mペアリフトが100アンペアで運行され、電気料金が20円/kWhの場合、電気代(電気代(円) = 電流(アンペア) × 電圧(ボルト) × 時間(時間) × 電気料金(円/kWh))は、1ヶ月30日で3か月間リフトの運航を継続した場合、140万円/日なので、1億2600万円/基あたりかかります。クワッドリフトの場合はそれ以上で概ね2億5200万円/基かかります。宝台樹スキー場にはペアリフト4基、クワッドリフト2基ありますので、約10億円電気代がかかる計算になります。これに人件費を加えると、1シーズンの施設管理費と人件費の総額は約11億になります。
宝台樹スキー場の来場者数は、2022-2023シーズンは24万5463人でした。リフト代は大人1日券が5,100円で、週末の駐車場代1,000円と、レストランの売り上げを加えると、収入が概ね16億4000万円になり、売上高は約5億円前後になります。宝台樹スキー場の売上高は、2022-2023シーズンは約6億円でした。これは、前シーズンより約1億円の増加です。来場者が増えたことと食事などの値上げが収益に貢献したようです。
宝台樹スキー場の特徴は、極上のパウダーを堪能できる環境と下部の緩斜面の豊富さによる初心者や初級者向けの広々としたゲレンデにあります。つまり、パウダー三昧を狙うコアなスキーヤーやスノーボーダーのための環境整備が必要で、ひとりでも滑りに来れるスキー場としての提案です。これはニセコモイワスキー場のロッジモイワ834のような新型のカプセル形式の簡易宿泊施設(軽朝食付)やトリフィートホテルのような簡易宿泊施設をセンターに設置し、シャトルバスで前日深夜到着、翌日ゲレンデ前から滑り出し、シャトルバスで帰るサービスがあれば、収益改善につながると考えます。都心で仕事終えて、東京駅9時前に新幹線で出発し、22時に上毛高原へ、シャトルバスで23時前には宝台樹スキー場へ到着できます。そうすれば朝一番の新雪を味わうことができるわけです。都心から2時間で新雪が滑れるスキー場は希少と言えそうです。
食事と休憩所の分離
レストランと休憩所が分離した代表的なスキー場は、白樺高原国際スキー場です。白樺高原国際スキー場は、長野県北佐久郡立科町にあるスキー場で、晴天率の高いスキーヤーズオンリーのスキー場として有名ですが、センター上に畳敷きの休憩所があるのが特徴で、子供が疲れたり、お昼ご飯持参で休憩所でも食事ができるところが他のスキー場にない特徴です。休憩所のないレストランでは、食事の後にその場で休憩をするスキー客が少なからずおり、回転効率が悪くなるばかりか、レストランが常に混雑している状態になります。休憩所があれば、食事をした後、休憩所に移動するため、レストランの回転効率も上がり、からだを休める場所をスキー客は手に入れることになります。
レストランでしか食事ができない、それも高額な昼食費用は、客離れを生みます。少なくないスキーヤーやスノーボーダーはお昼ご飯を持参し、雪上や駐車場の車の中で食べるようになるでしょう。これはどちらの側にとっても良い関係にはなりません。
スモーランドの設置
併せて、IKEAの子供の遊び場「スモーランド」のように、子供たちが安全に遊べるよう設計された滑り台、ブランコ、ボールプール、おもちゃなど、さまざまな遊具が設置されている遊び場で、専属のスタッフ(保育士資格・幼稚園教諭)が常駐することで、子供にやさしい、家族で楽しめるスキー場として再認識されるでしょう。雪の上で遊ぶのに疲れたら、スモーランドで子供を預かり遊ばせたり、お昼寝をさせたりします。親だけでスキーやスノーボードを短時間楽しんだりするときにも利用できます。欧州では、どこに行っても子供が遊べるように、こども中心、家族中心のインフラ整備が徹底しています。日本で導入しているスキー場は本当に数が少ないです。
宝台樹スキー場のファミリーコースの中間地点には閉鎖されたレストランがあります。こうした場所をリノベーションして、休憩所として開放していくのも良いアイデアになるでしょう。
クラブ会員システムの導入
宝台樹スキー場は週末には駐車場料金を1,000円徴収しています。この方法より、かたしな高原スキー場が実施している会員システムのように、ファミリー会員やシニア会員、パウダークラブ会員などを設置し、会費を3,000円(3年間有効)で、駐車場無料、各種特典を付ける方が収益性も良く、利用者にサービスを還元できます。
仮に8万人の家族がファミリー会員になり、シニア会員やパウダー会員など延べ16万人の会員を集められれば、3年間の収益は概ね2億8800万円で、「人員不足による運休」などを解消する手立てになるものと考えます。
持続可能なスキー場
経営側と利用者が互いに恩恵を受けられる持続可能なスキー場とは、スイスのグリンデルワルドなどのリゾート地を見ればわかりますが、誰でも、学生でも、家族でも、スキーヤーやスノーボーダーのレベルに関係なくどんなレベルの方でも、楽しめる環境づくりが必要です。お金を持ち合わせてない学生用にキャンプ場を設置し、テントで寝泊まりしながらスキーやスノーボードができる場を提供したり、民宿やペンションのように食事などのサービスを受けられる施設を利用したり、コンドミニアムのように食事は各自で経営側は泊まれる施設だけを提供したり、ひとりで来ても止まれて遊べるようにカプセル方式の宿泊施設があったり、雪の上で遊べる環境を作って行ければ、持続可能なスキー場として繁盛していくでしょう。
参考