スキー十戒

昔から極寒悪雪で有名な乗鞍高原スキー場で、乗鞍三羽烏と言われた達人にスキーの奥義を教わることができました。その後、本場オーストリアへ武者修行に出かけ、インスブルック大学のクルッケンハウザー教授やホピヒラー教授からスキーを学び、帰国後にスキー界でたくさんのお仕事をさせていただきました。大学を定年退職しましたが、まだまだやり残した仕事があるので、からだが動くうちは頑張ろうと思っています。このスキー十戒は、これまでの経験をまとめたものです。

【滑走術十戒】
一、板の真上に立つこと、これ動きの始まりなり!
二、滑るとは重心移動と回旋と傾けることなれど、割合変えれば変化自在!
三、雪との会話の始まりは、足裏・足首・膝・腰と伝わるものなり!
四、滑るとは、前後・左右・上下に動くことなれど、これ安定と不安定の連続と知れ!
五、一回の荷重で板を正確に回すこと至極大変なれど、これ滑ることの基本なり!
六、雪質、斜度、地形・スピードいずれが変わるも滑りは変わる。
七、力とは大きさと方向を持つ量なれど、重力・遠心力・加速度・・・自然との共生に形なきもの数知れず!
八、研ぎ済ませし五感は、上達の道しるべなり!
九、軸線使うこと悟らば、筋力いらずの技運隆盛、筋力得しは鬼に金棒!
十、新雪、深雪、硬雪・湿雪これ全て雪面抵抗の違いはあれど、同じ雪なれば、差別することなく、受け入れるべし!

【身心洗浄十戒】
一、己を磨きたければ、身心洗浄これ静粛なる自然の神々からの極楽浄土、故に常に切磋琢磨すべし!
二、いつ如何なる時でも、如何なる理由があろうとも、そのときの滑りが己の技量なりと知れ!
三、快晴無風温暖粉雪これ人間の戯言としれ!
四、時の流れに身を委ねるは、大いなる自然との共生の始まりなり!
五、目配り・気配り・心配り・・・皆が悟ればスキーは楽し!
六、私利私欲に走りし諸行は、自然への反逆なれば、必ずや災いを被ること、必然なり!
七、自ら残すシュプールは、つかの間に消える己の人生なれば、振り返るも良し、振り向くことなく立ち去るも良し!
八、人に見せる・見られること重圧と思わず、自己向上の糧とすべし!
九、人の話を謙虚に聞くこと、これ大切なれど、鵜呑みにせず、自ら実感したもので自ら創造せよ!
十、十人十色の雪煙あれど、シュプールを刻む楽しさに変わりなし!

【伝承術十戒】
一、流行とは時代の流れなれど、先人によって築かれし基本に変わりなし!
二、教えること、これすなわちこの型にはめることにあらず、その者の滑りを生かすことなれば、己の感覚を伝授すべし!
三、動きを教えること、即ち形なきもの教えることなれば、力の大きさと方向の量を忘れることなかれ!
四、己のシュプール多様なれば、広く教えの道開かれん!
五、山に向かい、山に問わば、自然に教えを乞うことなり!
六、「差を感じる」、「差を理解する」、「差を染み込ませる」これ指導の三原則なり!
七、学ぶ(見抜く)ときには弧を繋ぎ、洗練するは弧を区切り、染み込ませるは弧を繋ぐ!
八、悪癖(あくへき)の根元は、悪癖の現れし場所にあらず、その前の動きにあり!
九、雪上での説法は講習にあらず、講習とは口で滑ることにあらず、足で滑ることなり!
十、数ある教え方に誤りなくも、常に教え方に疑いあると悟るべし!

【指導者十戒】
一、山に活きる者ならば、息づく山の雄叫びを、伝えし山に来る者達に!
二、望むと望まざるとに関わらず、目立つ存在なれば、何時如何なるときでも人目を引くこと忘るべからず!
三、卓越せし技を持たば滑りに説得力あるも、これ必ずしも教える術(すべ)備えし者にあらず!
四、技の高みを極めし者、人の滑りの悪癖を見抜くこと得意なれど、良癖を見抜くことを忘るること多し!
五、仮にでも技術が劣ると笑うなかれ、習わぬ先のわが身なりけり!
六、上手いとは外に語らず、自慢せず、身の及ばぬを恥じる人なり!
七、番号呼ぶは己の勝手、名前呼ぶは社会の常識!
八、仮にでも己が己の講習を受けて思う良し悪し、生徒の思いもこれ同じ!
九、批評・批判は周囲の讒言、炯眼持つは指導の始まり!
十、金と時間と労力を使いし生徒の要求に、答えて値が付く指導の力量!

【検定十戒】
一、滑る都度、検定するぞと思うなら、検定は常の滑りにならざらん!
二、本番は心静かに気を配り、心は連なる山の姿かな!
三、滑るとは柔らかにして強くあれ、硬く弱きは下手のふるまい!
四、厳しさを好んで受くる心意気、楽しさあれば厳しからずや!
五、仮にでも失敗するは人間の、もって生まれし当然の、諸行なりと思うべし!
六、手と肩の力を抜きて腰強く、滑るスキーは氷を砕く!
七、守勢に回るは後の祭り、攻撃するを常とすべし!
八、隙間から襲いかかるは逃走も、己が向かうは闘争なり!
九、プレッシャーは人から授かりしものにあらず、自ら作りし虚構なりけり!
十、結果とは周囲の示す関心事、ひたすら滑る我が身なりけり!