センターポジションって何?

 今年もオンデマンド形式で指導者研修会理論講習を視聴し、2023年度SAJ指導者研修会実技講習会を受講してきました。昨年は「腰高のポジション」がテーマで、今年は「センターポジション」が「ターン前半のポジショニング」の中で出てきます。解説の中で、「全身をリラックスした状態で、自分の体重を素直にスキーに預けられるポジション」をセンターポジションといいます。この表記の仕方だと、これが定義になります。しかし定義とは、「物事の意味・内容を他と区別できるように、言葉で明確に限定すること」です。ここでいう「全身をリラックスさせる」や「自分の体重を素直にスキーに預ける」は非常に抽象的な表現で、明確に他と区別することができません。

 ブーツのタンを前に押して体重をかけることでスキーが切れていると思い込んでいるスキーヤーやズレの少ないターン弧を作るためにスキーをたわませることのできないスキーヤーを見て、こうした言葉を使って表現したのかもしれませんが、最初に解説しているように、ターン運動の要素について説明をしているわけではなく、パラレルターンの習熟度を高めるために必要なポイントとして、ポジショニング、エッジング、荷重動作に注目したと言っているのであれば、ひとつの考え方であって、何も言うことはないことになります。
 しかし本来であれば、ターン運動の要素について研修すべきで、その意味では「荷重」「角づけ」「切りかえ」の運動要素について解説した方が誤解を生まなくて良いように思います。

 もうひとつ気になる点は、仮に「パラレルターンの習熟度を高めるために必要なポイントとして、ポジショニング、エッジング、荷重動作に注目した」と説明していますが、ターンのどのタイミングで、どの場所を、どんな環境条件で雪面に対して運動を働きかけるのかについて解説するときに、外力の得にくい緩斜面や低速域で説明しようとするあまり、無理やりからだを動かしたり、脚を折り曲げたりして師範しているところです。これは間違った運動を伝えることになるのでやめた方が良いでしょう。

 例えば、「センターポジション」の説明は、「スキーの真ん中を踏む」とか「ターン中、センターポジションをキープする」などと現場で伝達されていますが、「荷重」という言葉で済ませることができます。岡部洋一(2017.2.23)は 「スキーの科学とスノーボードの科学」の中で、「人間が板を押すことを荷重といい、板を押す力の作用点を通り、板を押す力のベクトルの方向をとる線を荷重軸という。」と述べています。荷重軸は板を押す力の作用点を通り、板を押す力のベクトルの方向をとる線のことなので、重心も軸線にあります。この荷重軸が壊れるときは、ターンは成立せず転倒します。従って荷重軸を作ることでターンが成り立つので、荷重の仕方をTPOに応じて確認すれば良いことになります。 

 例えば、エッジングについても同様で、「外脚の内旋、内脚の外旋に、上下動を組み合わせてエッジングをコントロールする」と定義づけています。エッジングとは「スキー板のエッジを雪面に立てることで、雪面との摩擦を増やし、スキー板をコントロールする技術」のことで、板をたわませるための技術です。からだの操作で説明すると滑走条件が変わると説明できなくなるのでやめた方が良いでしょう。

 例えば、荷重変化も同様で、「スキーに体重を預けたり、戻したりする動作」としていますが、ターン運動で説明すると「切りかえ」で説明した方が簡単です。

 雪上での実技研修を見ていると、緩斜面や低速域で「パラレルターンの習熟度を高めるために必要なポイント」を実践しようとして、無理やりからだを沈み込ませたり、膝を山側に折り曲げたり、外力が得にくい低速で無理やり外傾を作るのは、誤った解釈につながる恐れが出てくるように思えます。雪アリ県の研修会ならスキー学校の先生方名が多いので問題ないかもしれませんが、雪ナシ県では超高齢化が進んでいるので、なかなか若い人たちと同じ動きができなくなってきています。年齢や体力に応じた習熟度の高いパラレルターンの提案が必要なのではないでしょうか。

参考
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デジタル大辞泉
てい‐ぎ【定義】[名](スル)1 物事の意味・内容を他と区別できるように、言葉で明確に限定すること。
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精選版 日本国語大辞典
ポジショニング
〘名〙 (positioning)① 適当な場所に置くこと。位置を定めること。② スポーツで、攻撃や守備などの態勢の適切な位置どり。