アルペンスキー技術のロジック

 アルペンスキー技術の基本は何でしょうか。現在の選手の滑走技術は「いかに『ターニングポール(ターン内側のポール)』に近付いて最も短距離に滑走し、かつタイムを短縮するか」という方向性を極めようとしています。

日本の元アルペンスキー選手の平澤岳は、2013年4月11日スキーヤーGAKの「日本のテクニック・うそほんと チルドレンレーサーのために」の中で、「基本となるテクニックとして、最速ラインを通るために、方向を変えるとき、ターンをするわけだが、そのターン弧をより小さくすることで、直線が増え、タイムを短縮できる」と指摘しています。そして、「小さなターン弧を作るためには、板をたわませなければならず、たわませるためには上下等を使って、トランポリンのように板をしならせる必要がある」と解説しています。2017年3月31日に同じスキーヤーGAK「スキーのテクニックについて思うことと警笛」の中でも、上下動の重要性や板をたわませることも書き込んでいます。

これらをまとめてみると以下の通りです。

  • ターン弧を小さくして向きを変える
  • ターン弧を小さくするためには、板をたわませる
  • 板をたわませるために上下動をしっかりと使う
  • エッジングはからだ全体をターン内側に傾けて、膝は正面を向いて屈伸運動をしているように使う(膝の動く方向を変えない)
  • ターンとターンの間はより多くの体重を板に載せたいので立ち上がる
  • ターン終了時に外傾の姿勢から、くの字姿勢を維持したまま思い切り立ち上がれば、谷側に立ち上がる意識をしなくても、体は自然と谷側に立ち上がる

 アルペン競技選手の基礎として、Tomnaticは「Lateral Balance & Transitions(左右のバランスと切りかえ)」について掲載しています。この中で、スキーレーサーたちがターンの各段階を理解し、効果的に滑走するための概念として、Initiation(イニシエーション)、Apex(エイペックス)、Completion(コンプリーション)、Inflection(インフレクション)などの用語用語について詳しく説明します。

■Initiation(イニシエーション):日本語訳: 開始

“Initiation”は、スキーのターンにおいて使われる用語で、ターンを始めるためのプロセスや動作を指します。スキーのターンは、滑走中に方向を変える必要があるときに行われます。Initiationのプロセスは、谷回りに入るためにも適応されます。まず谷回りに入る前に、スキーヤーは次のターンの方向を決定します。そしてターンを始める際には、体重を新しくターンを始める方向に移動させ、次のApexへ移行していきます。

■Apex(エイペックス):日本語訳: 頂点、最高点
 “Apex”とは、ターンの最高点または、最大の曲がりを示す言葉です。言い換えると、最も除雪抵抗の大きな局面をApexとして捉えることも理解できます。ターンの中での最高点や板が最も曲がった状態では、スキーが曲がる方向に対して最も大きな角度で傾きます。この局面では、除雪抵抗が大きくなり、スキーヤーが滑走方向を変えるために必要な力が発生します。スキーヤーは効果的に旋回半径を短縮し、コースをより迅速に、かつ効果的に進むことができます。これは特にレースやテクニカルなトレイルで重要であり、スキーヤーが最速でコースを滑り降りるためのテクニックの一部です。

■Completion(コンプレーション):日本語訳: 完了、終了
 “Completion”とは、ターンが終わり、滑走が次の動作に移る段階を指します。スキーレーサーはApexから離れ、次のターンに向けて調整を行います。重心の進路が、足の進路から外れ始めます。Completionは、次のターンへのシームレスな移行を可能にし、効果的なラインを維持するのに重要です。

■Inflection(インフレクション):日本語訳: 屈曲、湾曲
 “Inflection”とは、ターンの方向を切り替える局面や動きの変化が生じる場所を指します。スキーレーサーはApexを通過し、滑走ラインから抜け出した後で、滑走ラインを変更して次のターンに向けて調整します。このとき、重心と足の軌跡は交差します。この段階では、一つのターンから次のターンへと滑走方向を変える瞬間や場面、エッジングや体重移動が変わる局面を示します。Inflectionが正確に行われると、次のターンへのスムーズな移行が可能となります。


 福井大学の清水史郎先生のスキーロボットからもいろいろ学べます。ロボットのターンには、上下等を使って板を徐々にたわませる人間の運動はできていませんが、受動的なつまり、重心を内側に入れて、板にサイドカーブがあれば、ターンをして滑り始めます。

スキーロボットの動きを見ると明らかで、アルペンスキーの場合は外足の伸展と内足の屈曲動作で重心が内側に傾き、スキーのサイドカーブでターンをはじめます。一方、テレマークスキーの場合は、内足の後ろに引くことでエッジを立て、スキーを内側に倒していきます。内スキーの外側のエッジで早く角づけができるのは、このテレマークスキーです。アルペンスキーの場合は、外スキーを伸展(荷重)しながら内側のエッジで角づけします。いずれも、重心をターン内側に移動して内傾角を作り、重力と雪面からの抗力(反力)の合力ベクトル(向心力)により、見かけの力としての遠心力に対処していきます。

もしアルペンスキー技術をテーマに、より速く滑る技術を求めているのであれば、大きなテーマは「Apexのコントロール」で、具体的には「どのように両方のスキー板をたわませて板を走らせるか」でしょうか。そのためには上下動を使い、スキーに体重を乗せる仕組みを学ぶことが上達の秘訣と言えそうです。

<参考>
平澤岳「基本となるテクニック」:https://gakuskix.exblog.jp/19194849/
平澤岳「スキーのテクニックについて思うことと警笛」: https://gakuskix.exblog.jp/27685298

清水史郎(福井大学)「スキーロボット(ski robot)」:https://www.youtube.com/watch?v=kD7gTbtwWJk&t=204s
Lateral Balance & Transitions The Cornerstones of Advanced Skiing Uploaded by Tomnatic
https://www.scribd.com/document/182284825/Transitions-pdf